日本ビルファンド投資法人の増資/REITアナリスト 山崎成人
1月16日に日本ビルファンド投資法人(略称;NBF)から増資の発表がありましたが、増資タイミングとしてはやや意外という感があります。
例えば、直近決算期(平成19年6月期)のLTVは41.4%という水準にあり、未だ2~3千億円の取得資金の借入余地がありました。 今年3月末に取得予定の「NBF豊洲ガーデンフロント」は約250億円ですので、この物件取得が引き金になっているとも言えません。
一方、JREIT市場での株価を見ると、今は調整が続いていて、NBFの株価も130万円/口程度まで下がっています。
従って、「何故、このような時期に?」というのが市場の見方のようですが、JREITのエクイティ政策を長期で考えると理解出来る面があります。
NBFの過去3回の増資を見ると、公募価格と公募口数はそれぞれ以下のとおりです。
第1回増資(平成16年7月) 759,500円/口、 84,000口
第2回増資(平成17年8月) 916,300円/口、 58,000口
第3回増資(平成18年3月) 1,019,200円/口、 85,300口
増資価格というのは資産運用会社にとってはエクイティ政策上の重要なハードルで、山登りに例えれば何合目という事になります。従って、いきなり頂上を目指すという事ではなく、5合目の次は6合目というように順を踏んでいく必要があります。
NBFの資産規模は既に6,000億円を超えていますが、これで上限という訳ではありませんから、これからも数回の増資は不可避です。
このように考えると、今の市場状況ならば、第3回増資価格から20~30%増で公募が出来ると踏んだ節があります。
仮に130万円/口弱で増資を行えば、市場での株価がこの価格を恒常的に下回る可能性は小さいと考える事も出来ますし、また、第5回目以降の増資も比較的スムーズに行える可能性が生じます。
勿論、増資による希薄化を考慮すると、より高い増資価格の方が有利ですが、それは既存投資家にとって一時的なメリットです。
元々、基準価格は50万円/口(NBFのIPOは625千円/口でしたので、これを基準価格と見ることも出来ます)ですので、増資の度に少しずつ上げていく方がエクイティ調達には有利です。
また、希薄化対策は内部・外部成長等によって対応するのが本筋ですし、NBFには、既にその力があるようです。前述した「NBF豊洲ガーデンフロント」の取得NOI予想利回りは6.56%ですが、この数値はNBFのポートフォリオ平均利回り5.47%(取得価格比)を1%以上上回っています。
従って、平成20年6月期の配当金の上昇が見込まれていましたので、この余力を利用して増資を行うという手法を選択したのではないかと考えられます。
そのため増資口数は過去3回に比べると少ない34,000口になっていますが、恐らくは新規物件取得による配当金増とバランスする増資口数を算出したと考えられます。
株価というのは常に過渡的な指標ですし、又、銘柄側が自在にコントロールすることは出来ませんが、それでも銘柄側の動きを縛ったり制約を与えたりします。
従って、目先の株価のみを追って資産運用を行うのではなく、JREITの仕組み理解した上で合理的に考え、且つ、長期の視点で捉えて、どのような運用を行うのかを考える必要があります。
このような見方を以ってすれば、今回のNBFの増資は理解出来るのではないかとも思えます。
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