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2019年05月20日

スターアジアグループ対さくら総合リート投資法人 合併を巡る攻防(1)

時事解説

5月10日、スターアジアグループ(※1)のライオンパートナーズ合同会社(以下、便宜的に「スターアジア側」と表記)が、さくら総合リート投資法人(※2)と自グループがスポンサーを務めるスターアジア不動産投資法人の合併に向けて動き出した。

同日付でスターアジア側が発表した資料によると、同社はさくら総合リート投資法人(以下、同投資法人)の投資口3.6%を保有する立場を活かし、手始めとして同投資法人へ以下の4議案(まとめると、執行役員と資産運用会社の交代)を提案するとともにその採否を問うための臨時投資主総会開催を請求した(※3)。

【スターアジア側提案議案】
1.現執行役員の解任
2.新執行役員の選任
3.さくら不動産投資顧問との資産運用委託契約解除
4.スターアジア投資顧問との資産運用委託契約締結

これを受けてスターアジア側の目論見通りに事が進むと2019年7月内に臨時投資主総会が行われ、執行役員と資産運用会社の交代を目的とした上記4議案の採決が行われる(※4)。
スターアジア側は臨時投資主総会で執行役員と資産運用会社の交代に成功することを前提として以下のシナリオを描いているが、はたして目論見通りに事は進むのだろうか。

【スターアジア側シナリオ】
7月内:臨時投資主総会で執行役員と資産運用会社の交代を承認
 ↓
9月頃:同投資法人とスターアジア不動産投資法人の合併契約を締結
 ↓
11~12月頃:両投資法人の投資主総会で上記合併契約を承認

2020年2月頃:合併実現

ここで注目したいのが、7月臨時投資主総会が開催された場合に「みなし賛成」が成立するかという点である。
法令は、投資主総会に出席せず、かつ議決権を行使しない投資主の議決権について、事前に投資法人規約に規定を置けば議案への賛成票とみなしてカウントすることを可能としている(※5)。
これが所謂「みなし賛成」であり、これが成立するとスターアジア側の提案した議案の承認に大きな追い風となる。
一方で「みなし賛成」は投資主総会で複数の議案が提出されて、その中に相反する趣旨の議案がある場合には成立しないことも法令で定められている。
「みなし賛成」を利用できるか否かでスターアジア側議案の成立のハードルの高さは大きく異なってくるが、彼らは無事「みなし賛成」という追い風を享受することができるのだろうか。

推測を多分に交えた見方となってしまうが、筆者は「スターアジア側は「みなし賛成」を享受できない」と予想している。
そもそもJ-REIT合併の手続き上の引き金は投資法人の執行役員による合併契約の締結である。
そして合併契約の締結後、関係投資法人でそれぞれ投資主総会が開催され、合併契約を承認するか否かの判断を投資主が下して合併実現や契約破談という結末を迎える。
これを念頭に置くと、スターアジア側の執行役員交代提案とそれを採決するための臨時投資主総会開催請求という動きは、同投資法人執行役員との合併に向けた事前協議が不調に終わったことを受けた行動に見えて仕方ないのである。
そして、もしこの見方が正しければ、既に合併を拒絶済みの同投資法人執行役員が7月の臨時投資主総会までスターアジア側の動きを座視するとは考えにくく、むしろ臨時投資主総会に向けてスターアジア側にとっての好材料を少しでも減らそうと動いてくるように思われる。
そうであれば、「反対議案を提出するだけ」という潰しやすさとその効果の大きさで真っ先に狙われるのが「みなし賛成」だろう。
これが、自分が「スターアジア側は「みなし賛成」を享受できない(=同投資法人側はスターアジア側議案に対抗して反対議案を出してくる)」と推測する理由である。

こうなると、スターアジア側、同投資法人側ともに臨時投資主総会で自身の狙いを実現する(相手の狙いを阻止する)ために少しでも多くの投資主の支持を集める必要が出てくるだろう。
所謂「プロキシーファイト」の勃発である。
J-REITを対象とするプロキシーファイトは既に前例があり、2010年11月に勃発したFCレジデンシャル投資法人に対する投資主エスジェイ・セキュリティーズ・エルエルシー(米国投資ファンド)の一件がそれに当たる。
これは当時、FCレジデンシャル投資法人がいちご不動産投資法人との合併を模索する一方、その合併条件が前者投資主にとって不利と判断したエスジェイ・セキュリティーズ・エルエルシーが合併成立前に前者の解散と全資産の現金化及び投資主への分配を実現させようとした案件である。
当該案件はJ-REIT初のプロキシーファイトとして注目を集めたが、当時のFCレジデンシャル投資法人の投資口保有比率は9割近くを内外の機関投資家が占め、とりわけ合併の動きを後押しするいちごグループが3割超の投資口を保有していたこともあり、結局エスジェイ・セキュリティーズ・エルエルシーは議案承認に必要な議決権を集められず敗北した。

今回の案件ではスターアジア側とさくら総合リート投資法人側がプロキシーファイトを繰り広げる可能性が高いと考えられるが、もし実現すれば、合併を狙う側から仕掛けるものとしては初の事例となるだけでなく、投資主構成の観点からも興味深い事例となろう。
前述のように、FCレジデンシャル投資法人とエスジェイ・セキュリティーズ・エルエルシーとの一件では、前者の投資口の大半を内外の機関投資家が保有しており、いちごグループを中心に機関投資家の支持を固めた投資法人側が勝利した。
ところが、今回の焦点となるさくら総合リート投資法人では、投資口保有比率の53.5%を個人投資家が占める構成となっており(次点は金融機関の21.7%。いずれも2018年12月末時点)、議決権の過半数を握るためには機関投資家のみならず、個人投資主を味方とすることが重要な意味を持つ構図となっている。
スターアジア側もそれを認識しているからこそ、ネット上で資料を公開するだけでなく、動画サイトYouTubeからも運用コスト減による分配金の増加や外部成長余地の拡大といった合併によるメリットを訴えて個人投資家に広くアプローチしようとしているのだろう。

ただ、スターアジア側が資料や動画を通じて主張している合併のメリットのうち、目先の増配については現時点で合併比率等詳細な条件が公表されていないため、実現するか不透明な面もある。
こうした諸材料を投資主がどのように判断するか、そしてスターアジア側や同投資法人側が投資主の支持を獲得するために今後どのような広報や開示を行ってくるか、従来のJ-REIT再編と違って各投資法人に個人投資家の重要性をより鮮明な形で印象付ける出来事となる可能性がある案件だけに、注目は一層高いものとなる。
また、J-REIT市場全体への影響として、もし個人投資家層がスターアジア側支持に流れて合併を決定づけることになれば、さくら総合リート投資法人同様に個人投資家の投資口保有比率が高く、かつ外部成長に苦戦している銘柄を標的としたJ-REIT再編の動きが俄かに盛り上がってくることも予想できよう。

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